ねがはくは 花の下にて 2

ご一読頂けるとわかりますけど、結構適当に未来捏造してます。はたして調査兵団とレイス家の明日はどっちだ。
てことで、55話以降のネタバレ若干含みます

でも実際のところ、あの世界は裏側で相当非現実的な手段で民衆を治めているようなんで、どこまでその事実が後世に残るかですよねー。こんなん公にしたら大変、ってことで敢えて公開せず闇に葬られる事実もあるんじゃないでしょうか。

今私が願うことは、これ以上メインキャラが減らないことです。(切実)104期生は是非生き延びてくれ。



開演。



******************************










 翌日も昨日と同じぐらいの時間に行ってみると、その人は木の下で腕を組んで座っていた。今度は蹴られないように、用心しつつ横から近づくとぱち、と目が開いた。おはようございます、と思わず挨拶すると、空を見上げたその人は 夕方だぞ、と答えた。
「…ずっとここにいるんですか。」
「ああ」
「どこか他のところに行ったりとかしないんですか。」
「ああ。どうやらここから動けないらしい。」
「退屈じゃないですか?」
「確かに暇だな。」
 幽霊と二人木の下に座って四方山話をしているというのも何か不思議な光景だろう、と思ったが、怖いとか不気味だとか、そういう感じはしなかった。そもそもどう見ても生きている人間にしか見えないのだから当然といえば当然だろう。
「自分のことも忘れた、って言ってましたよね。」
「ああ。」
「何かこう、手がかりとか無いですか?例えばこの服、何かの制服とかじゃないですか?」
「さぁな。」
 その人の服にはジャケットにも外套にも、同じ印があった。盾に重なる二枚の翼。何かのエンブレムではないだろうか。
「うーん…そしたら、なんでここから動けないんですかね。何かここに未練があるとか、そういうのですか?」
「かもしれん。」
「この下にお墓があるとか。」
「掘ってみないとわからねぇな。」
「ここで死んだとか」
「かもな」
「誰かと待ち合わせしてたとか」
「……」
 ぱち、とその人の目が瞬く。睫毛が長いな、なんてことを思った。
「…あの。どうかしましたか…?」
 黙り込んだその人はじっと視線を宙に止めたまま動かない。かと思うと、その目が空を仰いだ。視線を追った先には、長く延びた枝。蕾はまだ固く、花が咲くのはまだ先のようだ。
「…今年はまだ咲きませんね。」
 わかりきったことを口にした。まだそんな時期じゃない。花が咲くのは毎年もう少し先のことだ。
「…種だった。」
「え?」
「…外から持ち帰ってきた。白い花が咲くでかい木があって、…その実を持って帰って、撒いた。」
「…それって、ひょっとしてこの木ですか?」
 思わず後ろを振り返った。大人が数人がかりでやっと抱えられるような太い幹。これがずっと昔は一つの種だったということだろうか。そしてそれを、この人が撒いたのか。
「…てことは…」
 この人は、二千年前の空白期を生きていた人なんだろうか。
「あの。さっき外って言いましたよね。それって、」
「…壁の外だ。はっきり思い出せねぇが…でかい壁があった。外って言ったら壁外のことだ。」
 やっぱりそうだ。自分が歴史学者だったら小躍りしているところだ。
「他には?何か思い出したこと無いですか?」
「無ぇな。ただこの木が俺が持って帰った種から芽を出した奴だったってことは確かだ。」
「研究のためとかですか?」
「いや。…違う。」
「お土産とか?」
「……」
 まただ。視線が宙に止まる。その目はここにあるものを見ていない。どこか遠くの、何かを探している。
「あ、あの、オレ、調べてみますよ!何かわかること無いか。二千年前のこととか!」
 前に回り込んで無理矢理視線を合わせると、そう叫んだ。その人は不思議な生き物でも見るようにこちらを見つめた。
「…妙な奴だなてめぇは。そんなもん調べてどうする。」
「だって、なんだか寂しくないですか?自分のことも何もわからないって。」
 自分だったら寂しい。知っている人は誰もいない。自分のことさえわからずに一人取り残されて、同じ場所から動くこともできないなんて。
「…別にどうってこたねぇよ。それにもうすぐ終わるんだしな。」
「え?」
 ざわ、と梢が揺れる。冷たい風が頬をなでた。
「この木は遠からず枯れる。そしたら俺も消える。…それで終わりだ。」
 ざあっ、と一際強い風が梢を激しく揺らした。









「はいこれ。置いとくよ。」
「ああ、サンキュ、アルミン。」
「…エレン、考古学者になる気?」
「そんなんじゃねぇよ。」
 公立の図書館は一部の学生が春休みに入った事もあり、それなりに賑わっていた。中には家族サービスを逃れてきたらしいお父さん達の姿もあるが、蔵書もスペースもかなりの規模を誇るここはそんな彼らの格好の昼寝場所だった。あちこちで本を盾に午睡を決め込む面々に混じって本の砦を築いていると、却って奇妙な視線を向けられてしまった。幼なじみの二人もそんな自分の様子に不思議そうに顔を見合わせている。
 二千年前の空白期。あの人はその頃生きていた人だ。
 生前、恐らく何か未練を残すようなことがあったのだろう。それでずっとあの木の下に捕らわれている。けれども拠り所の木が枯れればあの人は消えてしまうのだという。
 そんなのはあんまりだ。きっと何か、思い残したことがあったはずなのに。そのせいで死んだ後もあの場所に留まっているのに、それさえ果たせずに消えてしまうなんて。
 二千年、あの人は何を待っていたのだろう。それさえ忘れてしまうほど二千年という時間は長く、苦しかったのだろうか。
 あの人が時々遠くを見るのは、そんな彼方の記憶をなんとか手繰り寄せようとしているからではないのだろうか。
「エレン、僕も手伝うよ。空白期の記録を探せばいいんだよね?」
「ああ。どんな小さいことでもいいんだ。」
「私も手伝う。エレンとアルミンだけじゃ大変。」
「ミカサもありがとな。今度何かおごるからさ。」
 アルミンがパソコンで情報を検索する横でミカサと二人、山と積まれた本に挑んだ。見つけた記録はノートに書き出すことにする。とはいえわかっていることはかなり少ないので、どの本を見ても大抵書かれていることは同じだった。中には明らかに創作ではないかという事も混じっており、情報は玉石混淆と言った様だ。
 共通するのは人々が壁の中で暮らしていたこと。壁の外に何かしらの驚異があったということ。人々を守る三つの兵団があったということ。およそ一世紀、その期間が続いたということ。
「…人類を追いつめた驚異が何だったか、っていうのは学者達の間でも意見が分かれてるらしいね。伝染病だとか、野生動物だとか、民族抗争だとか。」
「壁の存在は文献と、遺構が残っているぐらいで壁そのものは発見されてない。どういう技術を使ったのかもわからない。」
 三人でそれぞれ一冊のノートを回しながら記録を取り、重複したものを消していく。その中に目を引いたものがあった。
「…これ」
 それはアルミンが書きとったスケッチだった。かつて存在したという三つの兵団のエンブレム。盾に二本のバラは駐屯兵団、一角獣は憲兵団、そして重なる二枚の翼。
「…調査、兵団?」
 これだ。間違いない。
「アルミン、これどこに載ってた!?」
「えっと、ちょっと待って。…ああ、これだ。」
 ここ、とアルミンが表示したホームページに書かれた文字に目を走らせた。
 三つの兵団のうち、調査兵団は壁の外の「驚異」との戦いにおいて中心となった一団だったらしい。調査兵団という名が現すように、本来は壁の外の調査が主な任務だったようだが、その後の政変などにも彼らが大きく関わったと言われている。
「ここにも書かれてる。調査兵団のこと。」
 ミカサが別の本を開いた。
「調査兵団については書かれ方が文献によってバラバラ。王に反旗を翻した反逆者とも、革命を指揮した指導者とも言われてる。」
 空白期と呼ばれた時代はどうやら王政が敷かれていたらしいが、末期に政変が起こり、それまでの王家が滅んだとされている。調査兵団はそれにも関わっていたらしい。
「兵団ってことは軍隊だよな?軍事クーデターとかそういうのか?」
「詳しくはわからないけど、彼らが政権を直接掌握したわけではなさそうだからね。まぁ王を傀儡にその後の政権を動かした、って考えもありだろうけど。」
 なんだかしっくりこない。あの人はそういう政権争いだとか、どろどろしたものとは無縁の、むしろただひたすら戦場を駆ける兵士というイメージが強い気がする。
 それは抜き身の刃を思わせるあのまなざしのせいかもしれないと思う。まっすぐで鋭利で、そしてとても美しい。ずっと見ていたいと思うほど。
「…エレン、」
「え?あ、なんだっけ。」
「どうかした?ぼんやりして。」
 二人が不思議そうにのぞき込んでくる。なんでもない、と首を振って、手元の本に目を落とした。
「…あのさ。この調査兵団にいた人についてとか、何か記録無いか?」
「うーん…個人名はほとんど残ってないみたいだから…ただ、すごく有能なリーダーと強い兵士がいたみたいだよ。」
「…兵士」
「うん。…この分野は結構マニアックっていうか、ちょっと異端扱いされてるジャンルだからね。ここにある本ぐらいじゃ個人の特定までは難しいかな。」
「そっかぁ…」
「エレン、何がそんなに気になるの?」
「いやその…なんとなく。」
「…あ、エレン、これ見て。」
アルミンが手招きをする。覗いてみると、画面上にはずらりと並んだ暗号文。どうやら外国語のようだ。
「他の言語でも検索してみたんだよ。これが一番詳しいんじゃないかな。」
「…悪ぃ。要約だけ頼む…」
 外国語の授業は嫌いではないが、ここまでの長文は頭痛がする。
 アルミンによると、この研究者の説では壁の外の「驚異」とはある種の生物兵器だったそうだ。それらが作られた目的は増えすぎた人口の調節や一部権力による資源の独占を狙ったものだったのではないか、と推測されている。
 しかしそれは人々に知らされることはなく、その「驚異」から逃れるため、という理由で壁の中で暮らすことを強いられることとなった。
「…そのシステムに疑問を持ったのが第13代調査兵団の団長だった人物みたいだね。名前が…エルヴィン・スミス。」
 先ほどアルミンが言った「有能なリーダー」というのが恐らくその人だろう。けれどもなんとなく、あの人とは違うな、という気がした。
「他に個人名が出てくる人はあまりいないね。あとは…この人ぐらいかな。このエルヴィン団長の下でナンバー2の兵士長の地位にあった人だ。これはなんて読むのかな…Levi…レビ?いや…リヴァイ、かな。」
 瞬間、どきん、と心臓が大きく跳ねた。
 きっとそうだ。それがあの人の名前だ。
「アルミン、それだ!他には何か書いてないか!?」
「え?…ちょっと待って。…うーん…さすがに個人のことはあんまり詳しくは書かれてないね…えっと…100年に渡り人々を治めた王家は、その王位をレイス家の王女ヒストリアに返還…調査兵団はその後も王家の庇護の下に活動を続けた…ざっくり言うとそんな感じかなぁ…兵団のことと王家の政変のことを中心に扱ってる内容みたいだね。」
 それからも色々なサイトを回ってみたのだが、やはりその「リヴァイ」という兵士について、詳しいことはわからなかった。
 けれども確信していた。
 それはきっと、あの人のことなのだと。
 早くあの人に会いに行こう。あの木の下へ。早く、早く。
 早くあの人の名前を呼びたいから。








 公園に続く道は今日も人気が無く静まり返っていた。夕暮れが迫る中、黒い木のシルエットを目指して走る。その木の下に立っている小柄な人影をみつけると、思い切り叫んだ。
「リヴァイさん!!」
 はっとしたようにその人が振り返る。やっぱりそうだ。きっと、それがこの人の名前なんだ。
 目を開いてこちらを見上げるその人の前で足を止めると、荒い息を整える。さすがにバス停からほとんど走りっぱなしで来たから結構きつい。それでも、とにかく早くこの人に会いたかった。
「…なんだてめぇ…いきなりびっくりするじゃねぇか…」
「すみません、…あの、やっぱり、名前、合ってますよね?」
 どうにか息を整えてそう尋ねると、その人は少し考えるように首を傾げると そうだったかもな、と呟いた。
「で、なんでそれをてめぇが知ってるんだ。」
「調べたんですよ。二千年前のこと!あなたは調査兵団の兵士です。その服のエンブレムからしてそれは間違い無いです!そしてリヴァイ兵士長というのが、あなたの名前です!!」
「根拠はなんだ。」
「…勘です」
 事実そう言うしかない。ふざけるな、と一蹴されるかと思いきや、
「…なんだそりゃ。」
そう言って、その人は小さく笑った。その顔を見た途端、なんだか胸の中にぽわん、と花が咲いたような気がした。
「…あの、リヴァイさんて呼んでもいいですか?」
「そうしたきゃ好きにしろ。どうせ否定する根拠もねぇ。」
 やった、と思わず叫びそうになった。けれどもきっと、それがこの人の名前だというのはなぜか確信していた。
「それじゃリヴァイさん、オレが今から言うことで、何か思い出すこと無いか答えてください。」
 図書館でメモしたノートをカバンから取り出した。ぱらぱらとページをめくると、所々につけた赤丸を目でたどった。
「えっと、…まずあなたが所属してた調査兵団ですね。ここの役目っていうのが、壁の外の何かを調査することだったみたいなんです。心当たり無いですか?」
「漠然とした質問だな…」
「だって、この時期の資料ってほんと少ないんですよ。おまけに書いてあることもバラバラで、中には壁の外には人喰いの化け物がいた、なんてこと書いてあるものも、」
「いたぞ」
「へ?」
「人を喰う化け物だろ。確かにいた。」
「……」
 嘘だろ。
「あの…それは野生動物とかそういう…」
「巨人だ」
「……」
 マジか。
「…えーと…巨人ってあの巨人ですか。」
「他に何かいるのか。」
「いませんけど…」
 一体二千年前ってのはどういう世界だったんだろうか。
「すみません。それ、確かですか?」
「てめぇのやかましい声聞いてたら思い出した。」
 光栄です、と言っていいんだろうか。
「でも、それだったら何か痕跡があっていいんじゃないですか?化石とかそういう、」
「連中は死ねば蒸気になって消える。跡形も残らねぇよ。」
 そんなことってあるんだろうか。でもそれなら痕跡も何も無いはずだ。
「…じゃあリヴァイさんて、そんなのと戦ってたんですね…」
「そうなるな。」
 こんなに小柄な人なのに。確かに蹴りは強烈だったけど。
「でもどうやって戦うんですか?相手は大きいわけでしょう?」
「立体機動装置を使う。そいつで飛び上がって項を削いだら終いだ。」
「立体キドウ…」
「ガスとワイヤーを使って飛ぶ装置だ。…見せてやれたら早いんだがな。」
「見たかったです。」
 それはきっと、美しい光景に違いない。その背の翼が羽ばたくように見えただろう。
 なぜか、そう思った。
 それからもノートにメモした事柄を色々と尋ねてみたが、思い出せたことはほんのわずかだった。肝心のこの木のことはやはりわからないまま、日が暮れてしまった。
「そろそろ帰れ。暗くなる。」
「大丈夫ですよ。オレの家近いし、走ればすぐです。」
「親がいるんだろ。心配させるな。さっさと帰ってクソして寝ろ。」
 相変わらず口が悪いな、と笑ってしまった。なんだか前にもそう言われた気がする。名残は尽きないけれど、確かにそろそろ帰らないと母から電話がかかってきそうだ。
「それじゃリヴァイさん、最後にもう一ついいですか?」
「なんだ。」
「この公園って城跡だそうなんですけど、一時期どこかの兵団の本部として使われたこともあるみたいなんです。…ほら、あれとか石垣の跡なんですよ。確か奥には古井戸とかもあったはずですけど…何か心当たりあります?」
 リヴァイの目が、自分が指さした石垣を見やった。かと思うとふらりと歩き出す。慌ててその後を追うと、石垣の前で足を止めた。
 石垣と言っても、ほとんど瓦礫のような石組がわずかばかり残っている程度のもので、言われなければ見落としてしまいそうだ。けれどもリヴァイはじっとそれに目を落としている。
「…あの…」
「…地下」
「え?」
「地下室があったはずだ。」
「地下室…?」
 城跡だからそんなものもひょっとしたらあったのかもしれない。もう少しこの城跡の発掘記録を詳しく見てみればよかった。帰ったらネットで検索だ。
「地下室ってそこに何か、」
 言いかけて、言葉を失った。
 どうしてそんな顔をするんですか。
 崩れた石垣に向けられた横顔はなぜだかひどく寂しそうで、急に胸が苦しくなった。
 そんな顔しないでください。あなたがそんな顔をすると、オレは
「…おい」
 怪訝そうな声にふと気がつくと、後ろからリヴァイの肩に顔を埋めるように抱きしめてしまっていた。慌てて手を離して飛びのいたけれど、心臓がうるさいほど音を立てて今にも口から飛び出してしまいそうだ。
「す、すみません、えっと、その、…さ、寒いかなって思って、」
 我ながら下手な言い訳だと思った。けれどもこちらを振り返ったリヴァイはただ小さく笑うだけだった。
「…てめぇこそ風邪引くぞ。さっさと帰れ。」
「…はい。」
 こんなに顔が火照るのは、きっと風邪なんかのせいじゃないと思った。








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    Excerpt: そろそろ目次付けないと面倒くさいことになりそうなんで、ここに作っときます。 Weblog: Over the Wall racked: 2014-05-15 02:03